秋田家庭裁判所大館支部 昭和43年(家)78号 審判 1968年4月23日
申立人 矢野半二(仮名)
相手方 矢野好明(仮名)
右相手方の法定代理人後見人 大橋万太郎(仮名)
主文
本件申立を却下する。
理由
一 申立の要旨
申立人は、申立人の推定相続人たる相手方を相続人として廃除することを求め、その実情は次のとおりというのである。
(一) 相手方は申立人の長男で遺留分を有する推定相続人である。
(二) 相手方は、昭和三〇年ころから強度の精神分裂病にかかり、禁治産の宣告をうけ昭和三五年一月一二日申立人が後見人となつた。ところで相手方は、申立人と同居しているが、発作的に申立人に襲いかかり乱暴するので、将来が心配であり、先に本件申立のため後見人を辞任した。
(三) そこで申立人は、相手方の暴行虐待を理由として相手方を相続人として廃除することの審判を求める。
二 当裁判所の判断
本件調査の結果によると、次の事実が認められる。
相手方は、申立人の長男として大正一一年三月一一日に出生し、終戦後復員してから精神分裂病に罹患し秋田、弘前、大館の病院に長期にわたり入院し、昭和三五年一月一二日禁治産宣告をうけた。現在自宅に戻り申立人らと同居しているが、幻聴、妄想があつて、時々申立人らに対して手で叩く程度の暴行に及ぶことがある。しかし、そのために申立人らが医師の治療をうけたことはない。相手方は、兇暴性を示す都度入院させられて来たが、入院すればこれがなくなる。その病状は治ゆの見込はなく、兇暴性については人格荒廃の状態に達すると段々に薄れて来るとのことである。
してみると、申立人の推定相続人たる相手方が、申立人に暴行に及ぶのは、精神分裂病による心神喪失の常況にあるときの行為であつて、かような行為は相手方の責に帰すべきものでないことは当然であり、民法八九二条にいう虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行とは、被相続人に対して故意に暴行などに及んだ場合をいうのであるから、廃除原因にあたらないことは明白である。
(むしろ申立人としては、入院など適切な処置をとるべきであり、しかも禁治産者である相手方の将来を考えれば廃除というような遺留分の権利を奪うような方法は許されるべきでない。)
よつて、申立人の本件申立は、その理由がないからこれを却下することとして主文のとおり審判する。
(家事審判官 藤本清)